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HD650 DMaaの音 part.1

以前から欲しかった、Sennheiser HD650のDMaaチューニングモデルを手に入れたので、第一印象をメモ程度にブログにします。

イントロダクション

DMaaのことは、ヘッドホンマニアで知らぬ人はいないと思います。DMaaとはずばりHD600シリーズに改造を施して音質を改良するというサービスです。

DMaaによるチューニングがなされたHD650は非常に音が良いと評判なので、私も一度手にとって評判の理由を確かめてみたいと思っていました。噂によると、HD650DMaaは無色透明のモニター的サウンドで、中庸。シャープかつ高解像度。さらに音楽的にも優れているのだそうで、非常に興味がありました。

当然、非公式の改造なので店に試聴機が常設されているわけでもなく、自らDMaaに連絡を取って改造を依頼するというのが普通のやり方になるのですが、どうやら今は連絡がつかないらしく、誰かの中古品を買うしか方法がないらしいのです。その中古品も品数が少なく、数ヶ月に一回程度オークションに出品される程度です。

この度は運良くオークションに出品されているところを見つけ、落札しました。個人的には結構高い値だと思ったのですが、リセールバリューもそこそこあるだろうというと算段して買ってしまいました。

結論から言うと、あまり良いとは思えませんでした。

HD650

HD650は2003年に発売されたヘッドホンで、今でも名機と名高く使用者も多いです。HD650以前にはHD600が、更にその前にはHD580があり、HD600系の始まりはHD580の登場した1993年にまで遡ります。その時点ですでに基本的な設計は完成しており、細かな性能向上やチューニングの変更はあれど、それが今まで受け継がれています。

HD800が登場するまでの間、実に長い期間HD600系がラインナップの頂点に君臨していました。HD580から数えると実に16年です!

ゼンハイザーの現行ハイエンドはHD800SとHD820ですが、HD800系は2009年のHD800から始まり、2018年のHD820までの9年間使われています。ゼンハイザーのドライバー10年以上使い続けることを前提として設計開発されているようで、本当に凄いです。

さて、HD650の音についてなのですが、この機種には熱烈なファンは居るものの、音質的には批判も多く、「低音過多」「もこもこ」「こもってる」とか言われていたりします。長時間のリスニングに適したチューニングがその様な批判を招いているようです。アンプ強化やケーブルの変更で改善はされますが、根本的な傾向は変わりません。

しかし、低音の質は唯一無二の特徴です。深く頭全体を覆い込むような低域です。HD800ではこの様な低音表現は全く無くなって、か弱く、遠くで上品に鳴っているだけのものになってしまいました。

なんとも賛否の分かれるサウンドのヘッドホンでした。

DMaa

DMaaとはDelrimour Modern audio acoustikの略だそうです。HD600やHD650を改造してくれる工房です。ほとんど全てのヘッドホンはドライバー単体で音を作っているわけではなくで、それを収める筐体たるハウジングや周辺のフィルターなどを総合して一つのサウンドを完成させています。HD650とて例外ではなく、様々な素材のフィルターが組み合わさって、あの特徴的な低域よりのゆったりサウンドが出来ているのです。DMaaではそれらフィルターやパーツを吟味調整し、音を矯正しています。

 

ヘッドホンのチューニングはとても困難な作業です。膨大な時間をかけて好ましい音を判断するのであり、経験が物を言う世界だと思います。

私も素のHD650を自前でチューニングしようとしたことがあります。ドライバーの前にあるスポンジ状の音響フィルターを適当な素材に交換するとかそういう程度のものでしたが、ものすごく頭を悩ませました。素材を変えることで当然音は変わりますし、それを認識することも出来ます。しかし、”どれが一番好ましいか”と言われると途端にわからなくなってしまいました。それで結局デフォルト状態に戻したのです。

一つの音を作るということは、鋭い聴覚、粘り強い精神、そして経験と技術を要求する仕事なのであって、私のような素人が思いつきでやってもうまくはいきません。まして、DMaaのように全ての人にとって好ましい音を作ることは更に困難だと思います。

と、DMaaは素晴らしい仕事をする優秀なエンジニアのいる工房だったのですが、突然連絡のつかない事態になってしまったようです。某掲示板や価格.com掲示板、Twitterでも同様のトラブルが報告されています。入金後に音信不通になった人もいれば、普通に連絡がつく人、そもそも返信が来ない人など、複数パターンが有ったようですが、今は完全に音信不通らしいです。私も一度メールを送りましたが、返信来ずでした。

HD650 DMaaの音

今回手に入れたモデルはAuthentiktと名付けられたチューニングメソッドの適応されたものです。HD650の様なロングラン製品ともなると、マイナーチェンジが重ねられ、製造年代によって部品や音が少しづつ違うのだそうです。そのため各年代のHD650に合ったメソッドが開発されています。

Golden Eraと呼ばれる特定の期間があり、その時に製造されたHD650は音質的に最も優れているのだそうです。非GE機と比べるとかなり大きな差になるとか。GEのDmaaモデルは数が少なく、めったに見られないレアアイテムです。

前もってことわっておきますが、この記事でのレビューは標準的なHD650のDMaaモデルにSennheiser純正ケーブルを装着したときの音の感想になります。GEモデル+DMaa製ケーブルとは雲泥の差があるかもしれません。

ちなみにDmaa製のケーブルも非常に評判がよくて、ぜひ手に入れたいと思っているのですが、ヘッドホン本体以上に数が少なく、相当な入手困難品です。機会があれば買いたいです。

 

さて、その音質なのですが、冒頭でも述べた通り微妙でした。

なるほど、色付けが少ない、個性のない、無色でモニター的な音がします。RNHPと相まってソースに含まれている物をそのまま素直に出力しているようです。中庸という言葉がよく似合います。ブライト過ぎず、ダーク過ぎず、本当にバランスが良い。

非改造HD650の、陰鬱なアトモスフィアは消えて、高域が前に出てきているのを感じます。低域も引き締まり、あのバスレフっぽいボワつきとややディレイのある、頭を包み込むような低音ではなくなりました。素早く、それでいて深い低音です。この低域のラティチュードは唯一無二だと思います。

しかし、キレッキレの高解像度だとは思いません。分離もほどほど、霞がかかっていて見通しもそこまで良くない。40mmの小型ドライバーゆえか、定位感はすこぶる良いのですが、細部の描写力に欠きますね。ドライバーの性能の限界でしょうか。

DMaaのチューニングは性能を劇的に向上させる魔法などではなく、あくまでもHD650の本領を発揮させる程度のものなのだと認識させられました。

HD650の純正ケーブルはそこまで音が良くないというか、フォーカスをぼやけさせることを知っているので、リケーブルでどこまで変わるのかが気になります。

 

総評としては、音のバランス、低域の深さと階調は素晴らしいが、分離やディテイルの描写力に不満が残る、といったとろこです。帯域のバランスが良く、色の無さは今までに感じたことのないレベルで凄いのですが、純粋な性能は期待ほどではなかったということでした。

HD650DMaaを絶賛している方々は、現代的ハイエンドの音とはまた違ったところにある良さを評価していると感じました。それはヴィンテージ的な良さといいますか、純粋な性能ではないなにかです。古いJBLのモニタースピーカーやALTECのイメージです。

解像度、繊細さは上位のHD800の方が上でした。

 

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